03.ショッパー 「失望しましたよ、あなたには。」 苗野と臨也は新宿の喫茶店で話をしていた。午後6時、夕飯時で喫茶店にはまばらに客がいる程度である。職を失った苗野は藁をもすがる思いで臨也に会って欲しいと約束を取り付けた。そして開口一番、これだ。 「臨也さん…。」 「どうして証拠を残すかなぁ…さんをあの会社から永久に追放するチャンスだったのに。それとも罪を被せたってだけで満足しちゃったのかな?つくづく詰めが甘いよ、苗野さん。ちゃんと教えましたよね、証拠のけ、し、か、た。」 苗野はが会社に戻った事が許せなかった。あわよくば臨也にどうすべきかを乞いたかった。だが、臨也が苗野を見る目は軽蔑と失望の色に染まっていて、そんな事を聞けるような雰囲気ではない。 「そんなだからいつまでたっても仕事ができないんですよ。そういう人の事をなんて言うか知ってます?」 顔をのぞき込む様にして見られた苗野は何も言葉を発する事ができない。 「無能、っていうんですよ。」 苗野に絶望的な追い打ちを掛けると臨也は立ち上がり、去っていった。 苗野の他者に対する嫉妬と憎悪は見ていて楽しかったし、を嵌めると提案した時の喜々とした様子も興味深かった。歪んだ欲望と自分の居場所に対する固執。他者を排除する事でしか自分の安定を図れないタイプだった。それなのに苗野は計画の実行力にとことん欠けていた。駒にもなりやしないと臨也は苗野を見限ったのだが、最後くらいは失意の色に染まった表情を見ようとわざわざ付き合ったのだ。今の臨也にはもっと興味深い人物がいるのだから。 外に出てからしばらく新宿駅前周辺を歩いていると、ふと、ある女性の持っているものが目についた。 「……これはこれは。」 笑みを堪え切れずにその持ち物を目で追い、そして確かにそれを読みとっていた。それは「Rain Dogs」のロゴの入ったショップバッグだった。存在しなかったはずの、が勤めていたブランドの店が存在している。その事実だけで十分だった。何か変化が起きているという事だけは臨也にもわかった。 「さん…君はどんな人なのかなぁ。楽しみだよ…本当に。」 行く先を方向転換し軽い足取りで、臨也は街へと消えていった。 |