11.新宿にて 自販機や道路標識を投げ飛ばす男と、それを紙一重でかわす男の喧嘩は池袋では日常となっている。しかし、その日の喧嘩の場は新宿だった。 「二日連続でシズちゃんの顔なんか見たくないんだけど。」 静雄は臨也の言葉に反応する事もなく、近くにある標識を抜いた。伏せた顔からは表情を伺う事はできないが、纏っている空気そのものが赤く揺らめいているようで全身から怒りの感情が外に出ているのが誰の目からでもわかった。 「さんに嫌われちゃったからって、俺にあたるのは止めて欲しいなぁ。」 「臨也、テメェに何言ったんだよ!!!」 静雄は標識を臨也目がけて勢いよく投げ飛ばしたが、臨也は素早く体を運んでそれを避け切った。周りの人達はただ事ではない出来事に二人から逃げ去って行く。 の様子がおかしくなる時は決まって臨也の影がちらついている事に静雄は腹を立てていた。普段は怒りの頂点に達していても、何か別の事が起きればそこで怒りは鎮まる。だが、昨日のの様子は明らかに何かがあったと物語っていた為、怒りはおさまる所かどんどん増していき、こうして新宿までやってきたのだ。そして臨也を視界に捉えたと同時にとうとう頂点を越えてまるで人でも殺してしまうのではないかという程の殺気を放ち出した。 「さんって責任感強くて、しっかりしてると思わない?だからこそ誘導しやすいというか…いや、そうでもないか。結構融通きかない所もあるし。」 「俺はテメェが何を言ったか聞いてんだよ!」 何もかも知ったような口調で話す臨也の一言一言が静雄の逆鱗に触れている。逃げ回る臨也は走りながらも器用に会話を続ける。 「ねぇ、シズちゃん!さんの存在が明らかになったのと小説のスタートがほぼ一緒だって知ってる?だからさん、小説終了と同時に消えちゃったりしてね。」 怒りに身を任せていた静雄がピクリと反応した。それを見た臨也は高い声で笑ってから冗談だよ、と皮肉な笑みを見せた。 「それに言ったんじゃねぇだろうな!?」 「言ったけど?」 事もなげに答えた臨也に静雄は血管が切れてしまうのではと思う程に怒りに震えた。 「っざけんなよ!!!」 最近のの距離を取るような様子も、昨日泣いていた事も全て臨也が不安を煽ったという事に他ならなかった。そして、がいなくなる可能性があるという事を考えたくなくて、静雄は臨也を追い続けた。臨也がを振りまわしているという事実がどんどん静雄の怒りを増長させていく。 その日は新宿の街に一日中騒音が響いていた。 |