11.朝日がさすとき 今までに経験した事のないような力の出し方をした夜更け、静雄はすっきりとした気持ちで家に戻っていた。カンカン、と階段を登る音も心なしか心地良い。これで今までとは違った自分になれるかもしれない。そう考えると力を試してみたいという気持ちも沸いてくる。社宅の階段を上がりきると、の部屋のドアが開いたので静雄は驚いた。 「…?」 「静雄さん…大丈夫、でしたか?」 心底心配していたのだろう。の表情は暗い中でも曇った表情をしているのが見て取れた。もうすぐ夜明けだというのに起きていたのだろうかと、静雄は言い様のない気持ちが込み上げてきた。痛々しいほど無数の切り傷を作っている静雄には唇を噛みしめた。無事に戻ってきてくれたことは嬉しいが、何もできない自分の不甲斐なさに手をぎゅっと握り締めた。 「待っててくれたのか…?俺は全然なんともねぇし、平気だから。」 「傷が…手当てしないとです。」 「いや、本当に痛くもねぇんだよ。いいことがあってよ。」 傷だらけの割にはいつもよりも明るいトーンの静雄は、廊下の手すりに寄りかかって外を見た。外はまだ暗かったが、は静雄の横顔をオレンジ色の照明の下で見てハッとした。それは、今までとはまるで違う表情だった。 「俺さ…今までキレると力の加減がきかなくなっちまって、物だけじゃなくて人のこともぶっ壊しちまってたんだけどよ…さっきは違ったんだ。加減ができた…っつーか。ぶっ飛ばしちまったことには変わんねぇんだけど…。なんて言えばいいのかわかんねぇけど…。」 ぽつぽつと話し始めた静雄の話をは黙って聞いていた。静雄は自分の手の平を見つめ、ぐっと握ってそれを確かめるようにしていた。それまで心配そうな表情をしていたは静雄の様子に表情を和らげた。この出来事がなければ、静雄の今の表情を見ることもできなかったのだろうと。そういう状況を自分はこれから受け入れていかなければならず、腹をくくらなければならないと思った。 「そうなんですね。」 「言ってる意味、わかるか…?」 言葉が足りないか、とも思い静雄は横に立っているの方を見た。すると、はやっと少し微笑んで頷いた。 「はい、わかりますよ。よかったですね、静雄さん。だんだんその力を静雄さんの思う通りにできるようになっていけるかもしれない…ですよね。そうしたら、きっと沢山の人を助けてあげられますね。」 話しながら笑顔を見せたに、静雄はまた心臓がどくりと動いたことに気付いていた。 ――あの時と、一緒だ。 の部屋で手当てをしてもらったとき、目を離せなくなってしまった時のことを思い出していた。自分がふるっていた暴力が力となったとき、を傷つけるのではなく守ることへと変えられるのなら。もしかして、とそこまで考えてまたどくりと心臓が跳ねた。静かに眠り続けていた感情が胸の奥で起き上がり、燃える炎のように胸が熱くなってきた。ずっと暗い暗い闇の中へ感情を追いやってきたけれど。 ――いいのか。好きになっても。 静雄は自分の見ていた空が次第に明るくなってきている事に気付いた。 「夜が明けましたね。」 静雄は呟くように言ったの言葉を聞いて、まるで今の自分の心のようだと思った。長い長い夜が明けて、朝日がさす。自分を許し、を思う気持ちが許されることなのか、と静雄はゆっくりと理解していた。 安心した表情のまま、空を見ているを見る。今までと同じ様に心臓は鳴っているが戸惑いは既になくなっていた。 「あぁ、明けたな。」 静雄は燃える思いを胸に感じながら同じ言葉を繰り返した。今度は自分がを守る存在になることを決意して。 To be continued…? |